13 8月, 2011

ある僧侶の話

〜お盆特集〜

友人が知人から聞いたという、ある僧侶の話しをしてくれました。
和歌山県のどこかに住むその僧侶は、お盆の檀家まわりをする際、いちいち寺に帰っ
ていると檀家を次々とまわることができないので、その日の最後の檀家に一夜の宿
をとるのが先代からの習慣でした(たぶん車を持ってないのかも…)。
檀家では部屋と食事を用意するのですが、食事はお米と漬け物しか口にせず(そん
なふうだから彼は痩せているのだそうです)、また用意された部屋で寝ることはな
く、必ず玄関で、しかも靴を脱いでおくタタキの部分にゴザを敷いて寝るのだそう
です。彼の父親である先代もそうしていたそうなので、その寺の代々のしきたりめ
いたものなのかもしれません。

盆や法事の時、檀家はお布施を僧侶に渡しますが、彼は決して中を見ず(もちろん◯◯はいくら、なんてことも言わない)、頂いたまま寺に持ち帰り、開封せぬままある場所に置くのだそうです。
それも先代からの習慣だったようで、先代が亡くなった時、檀家衆が寺に行って息子である彼の雑用の手伝いをしていたとき、ある場所から山と積まれたお布施が出てきて、それを開封して数えたらなんと3000万円あったのだとか…。
父親である先代は住職である間、頂いたお布施を開けずそこにしまい続けていたのです。仏の前では人は皆同じであり、金額によって供養がかわったり戒名が変わったりなどはしなかったのです。そして先代にならって息子も同じように頂いたお布施は開封することなく、同じ場所にしまわれているのです。
そのお金は、決して僧侶の個人的なことに使われることはなく、寺の普請や檀家衆のもしもの時の備えになるのかもしれません。僧侶もいくらあるのか知ろうともせず、でも相手が富んでいようが貧しかろうが、淡々と僧侶としてやるべきことを同じようにお勤めを果たしているのです。
私は、その話し、ひと昔前の話しかと思ったら、現在の話しだというからビックリ。
その僧侶は現在五十才前後で現役なのだとか。私は、昔の聖人の話しでも聞いてるような気分でした。そんな人がまだ日本にいるなんて…。

今日からお盆。僧侶に供養してもらう先祖の霊たちは、さぞや幸せなことでしょう。
今夜も、彼は和歌山県のどこかの檀家の玄関でゴザの上に身を横たえることでしょう。

【作品詳細】category :イラスト  materials:鉛筆画+CG