サハラ砂漠で恋に落ちたアルマシーとキャサリン。かなわぬ恋。つらすぎる別れ。身も心もズタズタに傷ついたアルマシー。
そして、ハナも戦争で恋人や愛する友人達を失い、心は傷ついていた。
アルマシーは死んだ恋人の元へ行きたいと願い、ハナは死んだ恋人を生き返らせようとするかのように、彼の世話を焼くのだった。そんな二人の生活の中に、ある日インド人将校がやってきてハナと恋仲になり、また親指のない謎の男が現れてアルマシーを追いつめようとする。アルマシーは戦時中のサハラ砂漠で一体何をしていたのか?
イングリッシュペイシェントとはイギリス人患者を意味するが、主人公アルマシーはイギリス人ではない。アルマシーが焼けただれた顔であることと記憶喪失を装った(と私は思う)ために、患者の国籍を特定できない係官が憶測でイングリッシュペイシェント?とノートに書き込んだのが始まり。このことは人間の持つ性(サガ)をよく表していると思う。
人はどこかに属したり属させたり、所有したり所有されたりするものであり、そして、ひとの心、ひととの関係性、そして戦時下に於いては国籍や国境や敵か味方かさえも流動的で、変化し続ける大自然と同じく、何ひとつ変わらぬのもはない、とこの映画は語っているようだ。
だからこそ、見るたびに感じ方も変わるのかもしれない。
最初に見た時はストーリーを追うのに精一杯。二回目は感情表現に酔い、三回目以降はディテールを楽しんでいるが、見るたびに感じるところが微妙に違う。
手仕事が忙しくて徹夜したとき、BGMがわりにこれを流して(?)みた。わからないながらも耳で英語のセリフを聞き、でもストーリーはもうわかっているから、好きなシーンだけ、手を休めて見る。好きなシーンはたくさんある。
冒頭のクレジットで写る、壁画を模写する筆先のシーン、エジプトの商人が売り歩く色とりどりの薬瓶が風鈴のようにチャリチャリと音をたてるシーン、本がテーブルに置かれただけなのに美しい静物画のようなシーン、壊れたピアノでバッハを弾くシーン、教会の礼拝堂の壁画を揺れるロープにつかまって見るシーン、などなど…。
名作を多く手がけるガブリエル・ヤレドの音楽も美しい。中近東の雰囲気を感じる、でもハンガリーの歌手の歌声もまた優しくこころに沁みていく。
そして、ハナ役のジュリエット・ビノシュは以前から大好きだったが、ハナの泣く姿にホレましたです。突然感情があふれて泣き出すハナが愛らしい。J・ビノシュは私の憧れの女性です。