17 6月, 2012

ある記憶

photo / India
私は子どもの頃、気になる対象があるとじーっと見つめるたちだった。
小学校で先生していた母の同僚である教頭先生のお顔が馬面(うまづら)というのか、とても面長なお顔で、私は真剣にそのお顔をじ〜〜〜っと見つめ、意を決したように面と向かっておずおずと訊いたらしい、「先生はお馬さんから生まれたの?」と。
こんなにお顔が長いのはなぜなんだろうと、真剣に考えた末、真実が知りたかったんだろう、きっと。
当然、教頭先生は面食らって、でも1年生くらいの子に怒るわけにもいかないから、母に向かって「なんでオレが馬から生まれるとか!」と文句言ったらしいが…。
ま、それはいいとして、そういう子どもだった。




ある記憶が私の人生に何か意味を成すわけでもないのだけれど、わけもなくふとよみがえる記憶というのがある。
小学校高学年の頃、当時まだディーゼルカーだった筑肥線というローカル線に1時間半くらい乗って、ひとりで従兄弟のうちに遊びに行ったときのことだ。
同じ車両で顔の半分が黒いアザに覆われた30歳前後(今思えば)の男性が、すぐそばに立っていた。席が空いてなかったのか、車両と車両の間の通路かドアのそばあたりに彼も私も立っていた。
そして、たぶん例によって、その顔の半分が黒い男性の顔をじーっと見つめていたのだろう。小学生だから、そういう行為が失礼なことも知らずに…。
その男性が私に言った。「怖くないの?」と。
私は「怖くない」と答えたか、首を横に振ったかして否定した。多少、強がったところもあったかも、だ。怖くないわけではなかったが、”見たい”とか”なぜ?”という気持ちの方が強かったのだ。
その後も、なにか言葉を交わしたような気がするが、何を話したか憶えていない。
そもそも、現実だったんだろうか。もしかして…。
その記憶は時たま、ふとよみがえる。なぜだかわからないけれど…。