16 12月, 2015

又吉直樹 「第2図書係補佐」

私は、美大に入る前に1年浪人した。
福岡の繁華街・天神から歩いてすぐの予備校の日本画科コースに通った。
その年の日本画コースの生徒は私を入れて4人しかいなかった。男子2人に女子2人である。
3ヶ月くらいたったある日、女子のTさんが、今ならやっと言える、という感じでこう言った。
「初めてオオバちゃんとここで会ったとき、この人と1年間どうやってつきあっていこうか、って思ったくらい、オオバちゃん暗かったよ。」と言われた。
暗かった、って言えるってことは、今は暗いとは思ってないから言えるんだろうけど、一年の始まりに人様にそんな不安感を与えたのかと思うと、本気で暗くなりそうだった。

その後、東京の美大にやっと入って、伯母の影響で以前から好きだった山歩きをした。今と違って当時は、山歩きは女子が口にだして自慢できる趣味ではなかった。
親しくなった友人に「一人で高尾山にの登りに行ってる」と言うと、「一人で山歩きなんて、暗いね」とハッキリ言われた。そう言われて、また暗くなりそうだった。

実際のところ、私は決して明るくないし、私自身、天真爛漫な明るい人になりたいとも思ってないし、上記の暗い(?)思い出も嫌いじゃない。
今は、人からどう思われているか、確認作業をしたことはないのでわからないが、親しい友人は私を暗いとは思ってないようではある。

「第2図書係補佐」を読んでいると、そういう自分の青春時代の暗い面を、嫌悪感ではなく、何か親しみのある懐かしさのようなものを伴って思い出す。
一時期、キャピキャピとかいう形容詞がはやったことがあったが、我輩の辞書にはキャピキャピはなかった。今、もう一度青春時代をやり直すとしても、キャピキャピは絶対ないだろう。

昨日東京から福岡空港に着いて、カフェで一服したあと、カフェの隣の本屋で表紙の写真を見て、ジャケ買いとでも申しますか、好みの風貌(変?)だったので、なんとなく手に取っただけの本だったけど、読み始めて数分でクスっと笑ってしまった。
私は、ピース又吉のお笑いは見たことないけど、これを読んでファンになってしまった。
一応、古今東西の本の紹介の形はとってあるけど、本の紹介はほとんどしてなくて、又吉直樹の青春の思い出が詰まっている。思い出だろうけど、今の又吉直樹もそのままなんだろうと想像する。
そして、どれもちょっと可笑しい。

一冊の本に対して3ページの文章のうち、本の紹介は最後の数行だけだし、一見本と関係ないエッセイなんだけど、紹介されている本を読んでみようかな、と思えるから不思議だ。
本屋では近寄りもしないコーナーにありそうな本であっても、又吉直樹がススメてくれたら、手にとってみたくなるんじゃないかと思うような、不思議な力を持ってる人だ。

第2図書係補佐
又吉 直樹