03 12月, 2015

関田さんの鍋

10年くらい前に、立川の石田倉庫でのアートイベントを訪ねたとき、ひと目惚れして買ったミルクパン。カップ3杯分くらいのチャイが作れるくらいの大きさ。握り手のカーブと、思わず両手の平で持ちたくなるような丸みに魅かれた。会場には作家さんがいて、本人から買ったけど、10年もたった今では顔も名前も忘れていた。

ベースは銅鍋で、当時は錫(スズ)がひかれて銀色に光っていた。じゃ、なぜ今は光ってないのかと申しますと、何回か空焚きして、何回か黒こげにして、融点温度の低いスズが溶けて下にたまったりして、こんなになっちゃったのだ。
溶けたスズでボコボコになった鍋肌にミルクがはまり込んで洗いにくいから、さすがにミルクを温めることはできないのだが、銅鍋だから水がすぐ沸いて、卵やジャガイモを茹でるのにとても重宝している。


話しは変わって、去年うちの近くにオープンしたギャラリー・ラマパコスを3度目に訪れた時、オーナーの男性が店番してた。
彼が金属の物作りをしてるのは少し前に聞いていたので、普段どんな作品を作ってるのかを尋ねたら、彼はカタログを取り出して見せてくれた。
で、ページをめくったら、私のミルクパンとよく似たミルクパンが載ってるじゃないですか。私の黒こげの愛しい鍋の作者が目の前に偶然居たのでした。
ここで会ったが100年目、じゃなくて10年目だったわけですが、「もしかして立川の倉庫に居ました?私、これ10年前に買いましたよー。」と言って、私も彼も驚いた、というわけ。彼の名前は関田孝将さん。ステキな金属のものをスプーンから家具まで、何でも作ってる。
黒こげの件を話したら、スズの引き直しができるそうで、「今度、鍋を持って来てくださいね。」と言ってくれた。

関田さんのステキな作品はコチラ→ http://sekita-w.com/kitc.html

その日の夕方、早速鍋を持ってギャラリーに行ったら、今度は奥様が店番してて、鍋のことを言うと「主人に聞きましたー。」との返事。
鍋を見た奥様は「うわ〜、彼が駆け出しの頃の初期の作品だ〜!」と懐かしさと驚きがまじったような声をあげた。そして、うっすら目に涙を浮かべている。本当に感激していたようだった。当時の記憶が一瞬にしてよみがえったのかもしれない。

彼女は「いや〜、愛しいですね、このカタチ。今はこの形は作ってないんですよー。今のミルクパン、見ました?」と言いながら、奥の台所に一瞬消えて、今のミルクパンを抱えて出てきた。
今のミルクパンは、握り手も胴体も直線のすっきりとした形で洗練されていた。
「今は鍋の注文が増えたんですが、今の形の方が好まれて…。本人は、ひとつひとつ全部違う形のものを作りたいみたいなんですけど。10年前のを見ると、今のはきれいすぎますよね。」と、物作りをする人なら必ず通る”道”みたいなものを垣間みた。

スズが引き直されて、また私のところに戻ってくる日が楽しみだ。

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上記は去年書いて、下書きに保存したままアップするのを忘れていた記事。

で、鍋はきれいになって戻ってきたのに、また空焚きを何回かして、この一年半の間にまた内側の錫が溶けて、写真のようになっちゃった。
またスズの引きなおしをお願いに行こう~っと。
ちょっと恥ずかしいけど…。