23 9月, 2011

けだるいランチ

以前お世話になった雑誌の編集長だったYさんから仕事の話しをいただき、打合せに行った。乗り換えはよくするけど、降り立ったことはまだ一度しかない武蔵小杉駅。
Yさんは二人のお子さんを持つ父親でもあり、東京での放射能汚染による子供達への影響を深刻に考えていて、年内にも岐阜に移住するつもりで物件を探している、と話していらした。親しい友人の口からも”移住”という言葉が出てくるようになったし、来年の今頃は私をとりまく状況は今とは全然違ったものになるのかもしれない。全く想像がつかない。
東日本大震災の”想定外”な出来事は原発事故にとどまらず、人々の人生に”想定外”な連鎖反応を限りなく起こさせていく。いつまでも止まらない核反応のようだ…。

打合せからの帰り道、そんなことをボンヤリ考えながら武蔵小杉駅に向かっていたら、道に迷って横道に入り込んでしまった。あ、道間違えた、と思った時、なんだかパッとしない外観のタイ料理店が目に入った。ガラス窓に目隠しでもするみたいにタイ料理の写真がベタベタ貼ってある。おなかもすいてるし、空腹のまま考え事しても気が滅入るだけだから、ここで食べていこうかな、とドアを開けた。
電気のついていない薄暗い店内には一組のカップルがいて、メニューを見ている。先客がいて少しホッとして、けばけばしいピンクのカバーのかかった椅子の間を抜けて奥の長椅子に座った。店員の姿が見えないので、キッチンの奥をのぞいたらスキンヘッドのタイ人がこちらを認めてそそくさと奥からランチメニューを持って来た。
どれも写真写りの悪い料理の中から、あまり当たり外れがないであろうグリーンカレーを選んでみた。最初は暗いと感じたものの、ほどなく目が馴れて店内の様子がわかるようになったら、もうそこは隅々までタイだった。店員はサービスのつもりなんだろう、タイのカラオケミュージックをかけてキッチンに引っ込んだ。

グリーンカレーにごはん、サラダ、春雨サラダ、スープ、デザート
がついて800円。白地に赤い字の「タイほんばりょうり」の

ノボリが目印。店の名前はムーハウレストラン
ランチフリードリンクと書かれたテーブルに飲み物を取りに行き、2種類の飲み物のうち、ちょっと迷ってレモングラスジュースと書いてあるやつにしたら、とてもまずかった。私のあとに、男性がドリンクをとりに立ったので「レモングラスはやめた方がいいですよ。」と声をかけたら、恐いもの見たさなのか一つはレモングラスジュースを入れて彼女に差し出している。彼女は口にした途端、顔を歪めて「まずいよ、これ〜。」と言って、彼のパイナップルジュースと取り替えていた。


少しうるさいタイ語のカラオケミュージック、カップルのなにげないやりとり、全ての椅子にかかったショッキングピンクのフリル付きカバー、壁にかけられたプミポン国王夫妻の写真、天井からたくさんぶら下がっているタイのお寺のような飾り。ああ、思い切りタイの大衆食堂だなー、ここは。
グリーンカレーは甘すぎて、私にはちょっとまずかったけど、今日は、きっとこれでいいのだ。
もう滅多にないかもしれないけど、次にまたひとりで武蔵小杉に降り立つことがあったら、またこの店に来るかもしれない。東南アジアのけだるさも持ち合わせた、ある意味で完璧な店だから。
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*食べログの評価はまあまあで、カレーを絶賛してる方もいます。味は、個人の好みなので、一度お試しください。タイらしさを味わうにはオススメの店です。ただし、レモングラスジュースは、味見程度にちょっとだけネ。