19 7月, 2012

映画「ディルセ〜心から〜」

〜今週の名画座・キネマ大羽〜

インド映画といえば、”唐突に歌って踊ってハッピーエンド”のイメージが強くて苦手だった私のインド映画への固定観念を変えてくれた作品「ディルセ〜心から〜」のご紹介。
これも、インド映画の定石に従ってダンスシーンはあるのだけれど、どれもアーティスティックで美しい。日本で公開されるインド映画は、最近公開された「ロボット」のようなコメディ路線がメインだが、インド映画でも少数派のシリアスなテーマの本作は、インド本国でヒットした作品。(インド旅行で出会ったインド人ガイドの男性は3回も見に行った、と言っていた。

さて、映画のあらすじ。
4年前のムンバイでの同時多発テロ事件で日本人が犠牲になったのは記憶に新しいが、インドといえば宗教間または民族間の争いからテロリズムが多い国。
これはそのテロリズムを軸に、決して結ばれることのない恋に身を焦がす男女の物語。男はジャーナリスト、女は貧しい村のテロリスト集団の一員。男は駅でほんの束の間、言葉をかわした女に一目惚れする。女がテロリストとは知らずに追いかける男。恋することなど許されないのに男に魅かれていく女。そして女には国家の式典でのテロ決行の日が近づいていた…。
男の一途な恋心も、インドの抱える大きな闇に飲み込まれていくのか。男は、女を追えば逃げられるという連続の中で親の決めたお見合い相手と婚約させられることになり、一方女はひょんなことからその婚約者の家に下宿することになる。そして男はラジオの取材をする中で、女がテロリストだということを知る日が来てしまう。真実を知った男、そして女の葛藤も相まってこれも後半ハラハラドキドキな展開になる。現実では結ばれることのない主人公の二人も、ダンスシーンの中では愛し合う二人として描かれるのだけれど、その対比がまた切なさを募らせるのです。

以前はインド映画の唐突なダンスシーンに馴染めなかったのに、この作品を見てからというもの、ダンスシーンが楽しみにになってしまったオーバリー。
特に、この映画のダンスシーンは、列車の上、砂漠、遺跡、寺院、戦場、象の大群、水の中、と背景に凝っていて、従来のインド映画にしては前衛的でヴィジュアル的にも美しいシーンになっている。
中でも、列車の屋根の上で大勢で踊るシーンが有名(日本では有名じゃないけど…)で、同じく列車の上でのダンスシーンで有名になった映画に、デンマーク映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(カンヌ国際映画祭受賞作品)があるが、「ディルセ」の2年後の作品なので、もしかしたら「ダンサー〜」の方が「ディルセ」の列車シーンににヒントを得たのではないかと勘ぐっている私。

その他のダンスシーンはこちら…
http://www.youtube.com/watch?v=14m00xcuIjo&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=YwfCMvo19s8&feature=relmfu
http://www.youtube.com/watch?v=jwoSBP_GiuQ&feature=related

字幕なしのヒンディー語のみだけれど、YOUTUBEで2時間半の本作を見ることはできますが、言葉もわからんのに、そんな悠長なことする人はひとりもいないと思うので、最初と最後だけ…見ておくんなさい。言葉はわからなくても、なんとなくわかります。
ふたりの出会い、最初のパート(雨の駅舎で運命の出会い)
http://www.youtube.com/watch?v=ZSQ8lg88n7E&feature=relmfu
悲しみのふたり、最後のパート(真実を知った男が女を止めに行くのですが…)
http://www.youtube.com/watch?NR=1&v=I7SKE5hXCtQ&feature=endscreen

2000年に日本での公開はされてはいるものの、残念ながら日本語字幕のDVDは発売されていません。英語字幕のDVDは下記サイトで購入できます。
http://www.tirakita.com/Dil+Se…/DVD-110
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ちなみに主演の男優シャー・ルク・カーンはイスラム教徒ですが、ヒンズー教徒の女性と結婚しています。インドのテロの原因のひとつであるイスラム教とヒンズー教の対立問題を抱えるインドでの、異なる宗教間やカースト間で結婚することのめずらしい環境の中で、私生活でも”壁”を越えるシャー・ルク・カーンはインド国民の尊敬を集めるスーパースター。
最初に彼を見た時、「濃いな〜、この人。どこがいいん?」と思ったけれど、彼の作品を何本か見てるうちに、その濃さ(アツい男とも言える…)ゆえに好きになってしまった、”イヤよイヤよも好きのうち”的な(?)ハマリ方をしたオーバリーでございます。
クサヤの臭いがキライだった人が、いつの間にかクサヤが好きになってしまった、みたいな…、感じ?