09 4月, 2012

映画「ヒトラーの贋札」

モンテカルロの海岸で男がひとり暗い海を見ている。
質素な服で手提げカバンを片手に高級ホテルに宿をとり、そのカバン一杯につまった札束で服をあつらえ、カジノで豪遊する。カジノで勝ってもどこか空しそうなその男サリーは、切ないタンゴの調べと共に、第二次世界大戦時の収容所の記憶の中に戻って行くのだった…。

第二次世界大戦時、ベルンハルト作戦というナチスによる大規模な贋札づくり作戦があった。印刷技術者、画家、写真家など贋札づくりに生かせる技術を持つユダヤ人たちが秘密裏に集められ、贋札づくりをさせられたのだ。特にポンドは多くつくられ、イギリス経済をかく乱させる目的も兼ねていた。この実話をもとに物語は展開する。

主人公サリーは戦前から国際的な贋札づくりの犯罪者だったが、ユダヤ人収容所に入れられ、ベルンハルト作戦に従事させられる。もうひとりのユダヤ人印刷技師ブルガー(実在の人物)は反ナチス運動に関わっていた。
サリーは、生き残るために、また仲間を守るために積極的に自分の能力を生かし、完璧な贋札をつくろうとする。一方、妻を収容所で処刑されたブルガーは、贋札を完成させることに抵抗し、作業に携わる仲間を巻き添えにしようとしていた。葛藤しつつも相反する二人。極限の選択をせまられた人間にとって、一体どちらが正しいのか…。
たぶん、戦争という不条理な行いの中で、正しいとか正しくないなどという定義はあてはめられない、と私は思う。戦争そのものが正しくないのだから…。
私だったら、収容所の中で生き残るために贋札をつくるかもしれない。

サリーはいつもふてくされているけれど、画学生の青年にだけは心を通わせ、守ろうとする。青年が絵について語るとき、サリーの目も生き生きとするのだ。そこにわずかながらでも芸術の力を垣間見て、ささやかな希望を感じるオーバリーでした。

全編を通して流れるピアソラ風のタンゴの調べがステキです。アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。映画専門チャンネル・イマジカBSで4月15.19.25日に放送予定。
http://www.imagica-bs.com/program/episode.php?prg_cd=CIID115409&episode_cd=0001&epg_ver_cd=06&epi_one_flg=index.php
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主人公を演じるカール・マルコヴィックスは、ヨーロッパで大ブレイクしたオーストリアのテレビドラマ「警察犬REX」のとぼけたちょっとコミカルな刑事役が印象的だったのが、この映画でかなりシリアスな演技をしているのを見て、名優クラスだなあと思ったものです。