26 9月, 2012

生きることは死ぬこと。…映画「Into The Wild」

〜今週の名画座・キネマ大羽〜

かつてマドンナの夫だった映画俳優ショーン・ペンが、実話を元につくった映画「イントゥ・ザ・ワイルド」。
立身出世を目指す道を捨てて荒野を目指し、荒野に果てた一人の青年のロードムービー。ショーン・ペンのいくつかの監督作品の中でも、また近年のアメリカ映画の中でも傑作だと思う。

一見、何不自由ない家庭に育ち、優秀で優しく、卒業した大学からハーバードのロースクールに進むと思われていた青年。約束された未来があっただろう彼は、長年の親の不仲から心の中にひそかに傷を抱えていた。その傷が青年を荒野へ向かわせる。車もクレジットカードも財産と言えるものを捨て去って…。

旅の途中でいろんな人たちに出会い、労働し、出会った人たちからも愛されるのだが、彼はそこにとどまることを選ばず、アラスカの厳しい大地を目指すのだった。自然と格闘しながら、自分と向かい合い、しかし、いつしか自然の罠にかかってしまう。

将来有望な青年がなぜアラスカで、ひとりぼっちで死ななければならなかったのか?
と誰でも疑問に思うだろう。監督ショーン・ペンもその疑問を映画で解き明かそうとしたんだと思う。
作品の芯にあるものはずっしりと重いけど、彼が旅の途中で出会う人たちの優しさや彼自身の振る舞いの良さにほだされて、しばし彼と一緒に旅をしている気分になる。
特に、アラスカに向かう直前に出会う老人との交流は、涙なしには見れなかった。

アラスカの自然と格闘し、死期を悟って彼が書き残したお別れのメモには、一種の清々しさがあるにせよ、この言葉は使いたくはないが”のたれ死に”としか表現できない死に様ではある。しかし、最後の最後に彼が光明を見いだすシーンは、この映画を見る全ての人にとっても救いとなる。 そして、それを見て、私たち傍観者は「きっと、これでよかったのかな…。」と思いながら、しばらくぼんやりと座りこんでしまうのだ。

でも、ふと思う。もしかしたら、これが人間の由緒正しき死に方なのでは?と…。 ひとりで生まれて(生まれるときは少なくとも母がそばにいるが)、ひとりで死んでゆく。肩書きや財産、親の七光りなどの一切通用しない自然の営みに、真っ向勝負して果てた青年は、もはや敗北者とは言えないだろう。
もし彼が荒野ではなく立身出世の社会を選んでいたら、少なくとも、死の間際に見いだしたものは、得られなかっただろう。

とてもいい本を一冊読み終わった後のような気分になる映画です。また、見るたびに感じ方が変わってくる映画かもしれない。
 原作のノンフィクション本「荒野へ」も出てるので、今度はこちらを読んでみたい。