11 4月, 2013

映画「SHAME」

〜今週の名画座・キネマ大羽〜

仕事では成功を収め、街を見下ろす高級マンションに住み、ハンサムで振る舞いも上品な男ブランドン。でもでも、彼はセックス依存症。しかも愛情の伴わない、プロまたは行きずりの相手でなければ関係が結べない男だった(つまり、人と心で繋がれない)。
仕事以外の時間はほぼセックス関係に費やしていて、それはそれで危ういバランスをとっていたブランドンだったが、ある日妹シシーが転がり込んできて、彼のそれまでの危ういバランスが一気に崩れる。

感情を出さず一見クールに振る舞うブランドンに対して、感情むき出しで愛情にすがろうとするシシー。そんなシシーの存在はブランドンの心を激しく揺さぶり、バランスを失った彼はまるで自分を傷つけるかのような行動に出るのだった。そしてシシーもまた、自分自身を傷つける行為に及ぶ…。劇中で彼らの過去に何があったのかは語られることはないが、「私たちは悪い人間じゃないわ。悪い場所に居ただけ。」というシシーの言葉で、彼らが心の奥底に抱える闇(Shame=恥)が浮かび上がって来る。闇を共有したであろう妹の出現は、彼が今も深く傷ついていることを思い出させるのだった。

ここでは過去に何が起きたかは重要ではない。
今までその闇にどう向き合ってきたか。そしてこれからどう向き合うのか。
終盤の兄妹の成り行きは、膿んだ傷口にもう一度指を突っ込むような痛みを感じながらも、その傷口を大気にさらしてみろ、とでも言っているかのようだ。

深く傷つく人間は、大抵「自分が悪いから」と思ってしまう。
そういう扱いを受けるのは私が悪いからだ、と。
「私たちは悪い人間じゃない。悪い場所に居ただけ。」というシシーのつぶやくような声は、いつまでも私の中で優しくこだましていた。

蛇足ではありますが、劇中セックスシーンはいろいろあれど、なぜか痛々しゅうございます。それよりも、苦しみに耐えかねて泣き崩れるブランドンが一番セクスィ〜でございます(ずっと見つめていたい、という点で…)。
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また、グレン・グールドの奏でるバッハがとてもよいです。バッハという古典音楽と現代劇がこれほどマッチするとは意外でした。
Prelude No. 10 In E Minor, bwv 855 →  http://www.youtube.com/watch?v=x09mBzozNFk