11 12月, 2013

開高健「珠玉」

「アクセサリー作ってるんだったら、コレいいわよ。」と、人に勧められて読んだのが、開高健の短編集「珠玉」。
私はあまり読書をしてないので文学には疎いし、開高健という名前を聞いた時、”釣り人”のイメージしかなかったので、こういう小説を書いていたとは知らなかった。

短編集といっても、「珠玉」に収められた3つの物語は「私」(正確に言うと、「私」という文字はひとつもないが)という物書きを生業(なりわい)とする主人公でつながっていて、それぞれ「アクアマリン」「ガーネット」「ムーンストーン」という宝石をモチーフにしている。
行方不明になった息子を何年も探し続ける父親が「私」を古いアパートの一室に招き入れ、ちゃぶ台の上に広げたアクアマリンの海のような輝き。
なかなか作品の筆が進まぬ「私」に、中華料理店の主人が貸してくれたガーネットの血のようなような深い緋色。
とある店でひと目惚れして買ったムーンストーンが、「私」に思い起こさせる白い宮殿。
開高健が紡ぎ出す言葉で描かれた石たちは、宝飾店のどんなに高価な宝石よりも美しいものとして脳裏に浮かぶ。

そして、それらの石たちは様々な登場人物達をより印象的にいろどっていく。
石の描写がすばらしく文学的(あたりまえか…)で、よくぞここまで表現できるものだなー、と感じ入る。

ムーンストーンが登場する3つ目の物語は、先のふたつの物語とは多少毛色が違う。
物語の突然のエロチックな展開に少々とまどった。もしも電車の中で読んでいたら、ちょっとドキドキしたかもしれない。
「珠玉」が開高健の絶筆だったことは読み終わってから知ったのだが、そう言われてみれば、ところどころに何だか胸を締め付けられるような感情が見え隠れする部分もあり、特に最後の物語は絶筆中の絶筆と思われるような終わり方をしていて合点がいった。

厳しい闘病生活の中で「珠玉」を書き、58歳で逝ってしまった開高健が「珠玉」の中で最期に発したコトバは、世の男性にとっては深い感慨をもって発せられるコトバかもしれない。それが、何と言うコトバかは、是非読んでいただきたく候。